音楽が聴こえる
屋上の鍵を開けるにはちょっとばかりコツがあった。

一年の頃は時間をかけた作業も三年の今となっちまえば、ものの数秒で開けられるってもんで。

鍵穴にピンを差し込むとカチャカチャと音を鳴らせ、重くて錆び付いたドアを押した。

流石に誰も使っちゃいない屋上だけあって、いつもながら剥き出しのコンクリートだけの殺風景な景色だ。

俺はドア横の壁際にケツを下ろしたものの、ポケットのスマホが邪魔臭くて仕方なく取り出した。

ゆっくりと息を吐いて、画面をスライドさせる。

げ。確かに山ほどメールが来てやがる。

昨日は一日中寝てたのも本当だけど香田のことを考えたく無くて、スマホすら触らなかった。

受信したEメールの中に、一件だけ香田の名前を見付た。

俺はその名前に気付くと無意識のうちに深く息を吐いていて、その自分の緊張に苦笑した。

……どんだけ意識してるってんだよ。



『昨日は最後まで見られなくてごめんなさい』

件名も付いて無え、短い文面。

クソ。ホントに国語教師かよ、言葉が足らねぇ。
< 186 / 195 >

この作品をシェア

pagetop