音楽が聴こえる
「分かってるよ。でなきゃお前、滅多に店になんて来ねーじゃん」

「こんなところで大事な休日過ごしたら、体もたないっしょ。その上ガキンチョが沢山いてさ、気が休まらないもん」

悟はあたしの斜め後ろの壁に寄りかかって、煙草に火を付ける。

いるか、と合図をする悟に「吸えるか、バカ」とだけ言った。

「だよな」

悟は端正な顔に意地の悪い笑顔を乗せて、美味そうに煙を吐く。

「次のバンド、確かお前の高校の生徒だよ。まだ荒いところもあるけど、結構良い音出すんだぜ」

「……へぇ」

いつも酷評しかしない悟が珍しく褒めるので、内心驚いた。

まあ、本人達には口が裂けても言わないんだろうけどさ。

「ヴォーカルのジュンも良い声してるしな。……まるで若い時のシュウみたいだよ」

久しく悟の口から聞かなかった名前を耳にして、思わず彼の顔を見上げた。

「ふ、ん」

「シュウっちゃあ、お前知ってる? あいつら、こっちで野外やんの」

「……知らない」
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