甘いヒミツは恋の罠
 その理由を聞く間もなく、絵里は婚約指輪とともに蒸発してしまった。それから数ヶ月経ったある日、絵里が指輪をもって逃げた理由と絵里が死んだということを聞かされた。それ以来、朝比奈の生活は誰の手にも負えないほど乱れに乱れていった。


「すみません、あの、そろそろ閉鎖時刻になりますので……」


「え? あ、あぁ……」


 何をするでもなく、ただ一点をじっと見つめて長い時間同じ場所に立っている朝比奈を、その女性従業員は不可解だと言わんばかりにじろりと見ると去っていった。


 紅美には完全に嫌われた。それでいい、これからはどうやって紅美の身につけているルビーを手に入れるかだけを考えればいいのだ。


 朝比奈はそう自分に言い聞かせると、切なげな瞳が、氷のような冷ややかな眼差しに変わっていった。
< 260 / 371 >

この作品をシェア

pagetop