冷たい上司の温め方

私は大きく頷いた。
遠藤さんの言葉には重みがある。


「だけど……正しいことを言い続けるのは勇気がいる。
そういう人を嫌う人が少なくないからね。
楠君、あなたのこと心配してる」


この間、聞いてしまった会話のことだろうか。


「楠さんは、どうして嫌な役を引き受けているんでしょうか」


偶然人事に配属されたからだけという訳ではない気がするのだ。
イヤなら、今までに他の部署に変わるチャンスもあっただろうに。

遠藤さんなら、なにか知っている気がする。


「楠君は、正しくないことに大切なものを奪われたの。
だから正義を守りたいんだと思うわ」


大切なもの?

それ以上詳しく話そうとしない遠藤さんに、深く追求してはいけない気がして、次のモップに手を伸ばして作業を続けた。

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