初恋の絵本
電車旅




「ふああ。眠い」



たっぷり寝たはずなのに、
眠気が取れなかった。

目を覚ますためにコーヒーを淹れた。

ブラックは、きついから。

お砂糖たっぷりで。




でも、コーヒーを飲んだおかげで
ようやく意識がはっきりしてきた。

そしたら、学校の存在に気づいて
気持ちが暗くなってきた。







「学校。行きたくないな……」



正確には、ハルに会いたくなかった。





昨日、二人で手を繋いで帰った。

いっつもお互い照れちゃって。

はにかんだハルはなんだか可愛かった。






初めて告白された時。

昼休み、彼に会いたくて仕方なかった。

ハルと昼休みを過ごすのが幸せで。

彰吾よりハルをとった。





物思いにふけっていると、
時間は簡単に過ぎてしまっていて。

慌ててコーヒーを一気飲みする。





制服に着替えて。

ズル休みしたい気分に喝を入れて、
玄関の扉を開けた。












「よう」

「しょ、彰吾⁉︎」


門の前に彰吾が立っていた。

隣のおばちゃん達が
チラチラこっちを見ている。




「あら、心実ちゃん、おはよう。彼氏が迎えに来てるわよ」

「相変わらずモテモテね〜。ふふ」

「おはようございます!そして彼氏じゃありません!」

「あらそうなの〜?でも素敵な子ねえ」

「背も高くて、将来が楽しみ。あなた絶対、男前になるわよ!」

「あ、ありがとうございます…」



おばちゃん達にバシッと背中を叩かれ、
いつもクールな彰吾が戸惑っている。





「じゃあ、行ってきます!」

「いってらっしゃい」


おばちゃん達に挨拶して、
そそくさ家から離れた。





「でも、珍しいね。彰吾が迎えに来てくれるなんて。つか初めてじゃない?」

「……まあ。たまにはな」

「ドア開けた瞬間、思わず閉めそうになったよ」

「やめろよ」




彰吾と一緒に登校するのが
嬉しくて、
学校に行きたくないなんて
ちっとも思わなくなった。





「ねえ。彰吾?これから毎日迎えに来てよ」

「ふざけるなよ。お前に失恋したのを忘れたのか。傷心の俺をこれ以上振り回すな」

「ならなんで迎えに来たのさ」

「なんとなく」





私から目を逸らす彰吾。

これはなんか企んでるな?




そう思ったけど。問いかけず。

彰吾とぺちゃくちゃおしゃべりしていたら学校に着いていた。



グラウンドを抜け、
校舎に入ろうとした時。











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