【短編】竜の追憶
青年時代
真っ青な宙(そら)を2条の白雲が天空高く舞い上がっていく。


その軌跡を追いかけるように、3機の練習機が6条の軌跡を描き、宙を翔ける。


3機の編隊の真ん中の機体に小隊長のバッチをつけたぼくがいた。


主要武器は全てペイント弾に擬装された装備だったが、いざ実戦ともなれば、20ミリの鉄火弾に電磁網、可変式のアームにレーザーソードが装備される。


竜を駆逐する為の火力が完装されることとなる。


入学してから5年…ぼくは最上級年に達していた。


竜駆逐戦闘機…通称『ドラッケン』にぼくは乗っている。


どこまでも蒼く透き通る大気を裂き、練習機は竜に見立てた機体を追う。


今、機体下部に可変式のアームは装備されていない。


通常であれば、竜激の際には、鉄火弾で牽制し、電磁網で動きを止め、アームのソードで仕留めるのがセオリーだった。


今回の演習はそれが目的でない。


左右に展開する仲間に風防越しにサインを送り、ぼくはアクセルブースターを踏み込む。


コンマ5秒しか噴射しないが、機体はいっきに音速の壁を破る。


竜に見立てた擬装機の背後まで迫る機体。


電磁網のトリガーを引く。


広範囲のペイント弾が破裂し擬装機体の上部が紅に染め上がる。


ブースターの加速が切れ失速するぼくの両脇を2機の練習機が同時に抜き去っていく。


遥か上方で2機が左右に別れオレンジとブルーのペイント弾を吐き出した。


mission終了。


ぼくたちは地上へと『ドラッケン』の機首をむけた。


これから、地上のブリーフィングルームで退屈な演習結果の報告会が待っている。


ぼくが宙軍に入って5年…未だに竜と出会っていない。


本当に竜はまだいるのだろうか…。


ぼくは竜に逢いたいと毎日祈っている。






心のどこか深いところから何か得体の知れない思いが後を追ってくるとも知らずに…。








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