春色デイジー

一歩外に出ると都会の喧騒に踏み潰されそうになるのに、ここは穏やか。
二つの世界にはたった一枚の壁しかないというのに。


そんな事を頭の片隅で考えながら、常連の村田さんと世間話に花を咲かせていると、春斗さんが席を立ったのが分かった。



「先輩、もう帰るんすか?」


まだ話足りない!と、つまらなさそうな顔の岡さん。

いつもは私のお兄さん的ポディションの岡さんだから、なんだか珍しい光景を見ている。


「明日から新しい職場になるから朝早いんだよ、」


隣の椅子に置いていたA4サイズが入ることを想定して作られた鞄は彼が社会人であることを表している。

それを掴みながら諭す春斗さんが、岡さんのお兄さんに見える。そこからも、二人の親密さは十分に伝わってくる。


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