理想の都世知歩さんは、




「それって」



私は、都世地歩さんがいつ衵の想いを知ったのか知らないけれど。

知っていて、それでいてそう思っているってこと?



「…………正直困る」



都世地歩さんは苦しそうに吐き出した。


それは私の目の前であまく浮かんだ。



「待ってごめん、話し戻るけど宵一、肉じゃがって言った?」


驚いたように聞き込む袿くん。

彼は確かにゆっくりだけど頷く。


「衵、和食作るの?」

「うん?前からずっと、和食……」

「まじで?」


うわわと顔を覆う袿くんに、彼以外の私たちは首を傾げるばかりだ。


沈黙が設けられた。


それにぶち当たった袿くんは顔を覆っていた指の隙間からあざとく、目を覗かせて何故か照れくさそうに答えを言った。



「衵は、小さい頃から洋食が好きだ……よ?勿論作るのも」



再度、沈黙が設けられた。


何も発しない都世地歩さんの顔を最低最悪野郎と窺うと、目が、驚くほど小さな点になっていた。

先ず最低最悪野郎が我慢出来ず噴き出した。


「和平も和平でいじらし過ぎんだろ」


「…………っ、はああぁ」


今度は都世地歩さんが、頭を抱えて再び煩悩の輪へ突入したようだった。






ところでその後、私は目の前で初めて逆ナンというものを目にした。

「今大事な妹の話してるんで」と、さらりと断った袿くんを初めて見た。

最低最悪野郎は無視を決め込んで肉を攻めていたが、「ね」と袿くんに振られた都世地歩さんが僅かに顔を上げ、「すみません、俺も大事なルームメイトなんで…」と口にしたのには腰が抜けそうになった。

赤らむ頬でそれ、通路挟んで隣の卓だったお姉さんたちを煽っただけだし。

私、ボイスレコーダーの準備していなかったし。勿体無いことしたと思う。



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