翼のない天狗
 やがて、豊備の瀧へたどり着いた。

 深い緑の中から忽然と現れる岩壁。そこ削る垂水は絶えることなく下へ墜ち、滝壺を廻って再び流れ行く。ゴオオゴオオと凄まじい音が辺りに響く。

「人魚どのおおお」
 間の抜けた声を上げながら、深山は滝の周りを忙しなく回って探している。

「おい、深山。私は手伝わぬからな」
 木の上で清青が言う。
「じゃあ何をしに着いて来たのだ」

 この轟音の中でも天狗同士ならば会話は容易い。

「お前が誘ったのだろう、見つけたら呼んで知らせてくれよ」
「ケ、まだ昼寝には早いぞ」
 うるさいうるさい、と清青は枝の上で寝始めた。
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