翼のない天狗

魂の玉


 氷魚の右手を握っていた流澪の手は、今は緩い。
 する、と手を抜く。
 そのまま右手を、流澪の心の臓の上に。
 そして念じる。
「……ひ……め……」

 流澪は力無く倒れ、氷魚の手には流澪の魂があった。それをしっかりと握り、流澪の居室を飛び出した。見張りの目をかいくぐり、水面を目指して泳ぐ。


 ドドドドドド

 その夜は満月。叢雲の合間から青白い光が差している。
 岩陰で舟を漕いでいた深山は、何かの近づく気配で目を覚ました。
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