翼のない天狗

嘆く魚

 一面、鮮やかに青い世界が水面の下に広がっている。
 水草は空から注ぐ光に揺れ、珊瑚は彩りを添える。川の生き物、海の生き物、水に住まうありとあらゆる生き物はこの水の世界で生きている。

 そのなかでもっとも個の数の少ない種族は人魚である。いくつかの血筋は系統を成し、序列と秩序を持っていた。

「……」
 ヒメと名乗った人魚もここに暮らす。淡い色をした布で区切られた部屋で、氷魚は清青が投げた面と睨み合っている。僅かに痛む右手を、時折さすった。
 シャンシャン、と布に付けられた鈴が鳴る。誰かが部屋に入る合図だ。氷魚は面を函へ仕舞う。

「どうぞ」

 訪問者の表情を見て、氷魚はにわかに眉を曇らせた。
「何でしょう、ルレイ殿」
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