翼のない天狗

花君

 言いながら、懐中より烏の面を出し、奥へ入って錫杖と刀を手にする。
「お父上は、実原の家はどうするのです」
「失敬」
 風に消えた。

 そして暗がりから清影が姿を現す。



 次の夜。子の刻に入ろうかという時分。

「花殿」
「……紫青様」
 夜這。
 花君は突然の訪問者に、体を起こし、胸の前を合わせる。
「先日はすまなかった。急に恐ろしゅうなってしまって」
 近い。正に目と鼻の先で紫青は喋る。
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