翼のない天狗
三、清青と氷魚

来訪者

 水の世界――
 こぽこぽと水泡が水面へと昇って行く。その泡を愛おしげに目で追うのは氷魚。手には清青の面。
 鈴が鳴る。それを隠す。

 入って来たのは身の回りの世話をする魚であった。
《氷魚様、流澪殿がお見えです》
 何用か。
 それを尋ねると、魚は頭を捻った。一度座を外し、もう一度中へ。
《氷魚様に直にお話しになるとおっしゃっています》

 気が乗らず、氷魚は書物を手にとりそれを開いた。
「気分が優れません。会えぬ、と伝えて」
《はい》

 しばらく経った。氷魚は小袖を纏って部屋の外へ出る。
 そこに、流澪がいた。

「ずっと、待っていらっしゃったのですか?」
「あなたに見て頂きたいものがあります」
 こちらへ、と氷魚を誘う。ほの暗い、罪人を留める場所へ。
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