翼のない天狗


「本当に天狗でございましたのね」
 一通りを見た氷魚は言う。
「疑っておられたか」
「確信は持てずにおりました」
 天狗の技の幾つかを使った。
「疑われるのも致し方ない。このような小賢しい術しか使えぬようでは」
 目を伏せて言う。

「立派な天狗ならば、もっと上等な技が使えるだろうに…」
「清青様」

 そう言って、氷魚は清青の手を取った。清青の両手を包み込むように両側から持つ。
「私は、妖しでございますから」

 この行動の意味を清青は汲めない。しかし、一瞬の不思議な感覚の後に、解した。
 氷魚が清青の手をゆっくりと開く。そこには
「水…?」
 氷魚は頷いた。
「ご覧下さい、ご自身のお顔を」
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