翼のない天狗
「私の目は常磐緑、清青様は藤紫。私も人魚の中では“異形”でございます」
 小さな顔。長い睫。その下の宝玉のような大きな瞳。
「今は人の足をしていますが、夜が明ければ魚のヒレに戻ります…私は」
 漆黒の髪。紅い唇。灯りに照らされる白い肌。
「私は何なのでしょうか、清青様…」
 清青は氷魚を引き寄せた。
 氷魚の頭を自分の胸に当てる。

 トクン トクン  トクン トクン

「…清青様……」
 少し早く、打つ鼓動。
 氷魚は右手を清青の体に沿わせた。
「あなたと、同じ音がしていないか?」
「…」
 氷魚は開いた右手を握り、清青の鼓動に耳を預けた。
「氷魚殿…あなたは私だ…」
 氷魚の目から涙が落ちた。
 清青は包むように抱きしめる。
 
 誰も解らないと、誰にも理解されないと一人嘆いて悲しみ悩んでいた。けれどその痛みを共にする者が、ここにいる。

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