翼のない天狗
「―…流澪殿は‘何者’ですか」
「私は、人魚の流澪です」
その答えに氷魚は笑む。
「そう易々とお答えになる方に、私のこころなどわかりません」
流澪は面を外す。
「奴は何と」
「『わからない』」
氷魚は流澪から面を静かに奪う。
「そうでなければ『天狗だ』と…」
胸に抱きしめ、目を閉じる。
「そう、あの綺麗な目を悲しそうに光らせて…」
昨夜、氷魚が清青の下にいたのは明らか。そして。
「……契られたのか」
氷魚は顔を上げる。
「はい、」
真っ直ぐに。