翼のない天狗


 当今の帝は、物好きとして知られる。国中は勿論、唐国からも、唐のものだけでなく、陸の向こうの国のものなど取り寄せては楽しんでいた。
 ある日、帝の耳にある噂が届く。
 豊備の滝に人魚がいる、と。


「面白い話だ」
「紫青」
 母、芳子は息子を叱咤する。
「何も面白いことなどありません。かの女は何者なのです。実原の子が妖と契ったとでも世に知れたら…」
「母上」
 紫青は含蓄に富んだ笑みを浮かべる。
「父上は関係ございません。私は父様の子です」
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