翼のない天狗
「出来ぬのなら、中納言を遠方へ送ろうか」
「父上は関係ございません」
違う、こんな事ではない。何だ、この気味の悪い感覚は。
「口答えなぞ……仕置きを」
どこに潜んでいたのか、何者かが紫青の後頭部めがけて、堅いものを振り下ろす。鈍い音を聴き、紫青は意識を手放した。
鼻につく、知らない香。
この匂い、嫌いだ。
どこだ。ここは。
「う……」
紫青は体を起こした。
手が何かに触れる。
これは。人の体?