翼のない天狗
五、再会と離別

天狗の親



 それから十日。相も変わらず風は止まない。
 朝廷から、ある令が発せられた。
 山に入り、人魚、もしくは天狗を捕らえ献上した者には褒美を与える、と。

 実原隆行が屋敷――

 芳子は一人、屋敷の奥で風の吹く音を聞いていた。

 紫青が内裏へ招かれ、そして天気は荒れている。その父である実原は、何らかの罰を与えられることこそなかったが、周りの目は冷たい。しかし、何故実原の嫡子が帝に招かれたのかを誰も知らない。帝も口を開かなかった。

 紫青が屋敷へ帰らないことは多い。と言ってもそれも長くて三日、五日を過ぎた頃から家の者も紫青と荒れた天気の繋がりに不審を抱いてきた。そして、内裏からの令。
 天狗、という存在が提示されたことで家の者達はいきり立った。紫青様は天狗にさらわれてしまったのだ、と。
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