翼のない天狗

堕ちる


 自分に向けられた矢を避けるなど、清青には容易いことであるし、この風の中を矢が真っ直ぐに進むこともあり得ない。では、何故矢は清青に刺さったのだろうか。
 清青が避けようとしなかったからか、それとも二人の矢に強い念が込められていたからか。
 メキ、と矢は肉をえぐり、骨を砕く。清青の肩と脇腹から鮮血が滴る。

 風が不意に止み、太助と弥平はその顔を見ることができた。

「し、紫青さ、ま」

 金色の髪、曙色の瞳。それは二人が馴染んでいた色ではないが、造作、体躯、正に紫青。
 清青は一度矢の刺さった箇所を見て、もう一度二人を見た。その瞳、藤紫。

「紫青様!」

 紫青は穏やかに微笑んだ。どこかで鳥が鳴く。
「……太助……弥平……ありが……」
 清青の瞳孔が開く。

 ずぼ、と片足が落ち、清青の体は水の中に崩れ墜ちた。

< 88 / 224 >

この作品をシェア

pagetop