翼のない天狗
堕ちる
自分に向けられた矢を避けるなど、清青には容易いことであるし、この風の中を矢が真っ直ぐに進むこともあり得ない。では、何故矢は清青に刺さったのだろうか。
清青が避けようとしなかったからか、それとも二人の矢に強い念が込められていたからか。
メキ、と矢は肉をえぐり、骨を砕く。清青の肩と脇腹から鮮血が滴る。
風が不意に止み、太助と弥平はその顔を見ることができた。
「し、紫青さ、ま」
金色の髪、曙色の瞳。それは二人が馴染んでいた色ではないが、造作、体躯、正に紫青。
清青は一度矢の刺さった箇所を見て、もう一度二人を見た。その瞳、藤紫。
「紫青様!」
紫青は穏やかに微笑んだ。どこかで鳥が鳴く。
「……太助……弥平……ありが……」
清青の瞳孔が開く。
ずぼ、と片足が落ち、清青の体は水の中に崩れ墜ちた。