翼のない天狗


「申し訳ございません」

 申し開きなどできる筈もない。おのれが矢を放った相手こそ、探していた紫青だったのだ。太助と弥平はひたすら主夫婦に頭を下げた。
「なるべくしてなったこと。仕方がない」
「しかし、隆行様……」
「浮かんで来なかったのなら、もしかすると紫青のことだ、どこかで生きているやも知れぬ」
 そう言い置き、隆行は去った。その後ろ姿を見送り、芳子は二人に向き直る。
「……紫青と天狗のことは口外しないように」
「もちろんです」
「わかりました」

「それと」
 加える。
「いつ紫青が帰ってきても良いように、今まで通りにお願いしますよ。あの子を待ちましょう」

 希望を。



< 90 / 224 >

この作品をシェア

pagetop