透明ニンゲンと秘密のレンアイ



 私が頭を下げると、ヘンタイは不安げに私を見て言った。



「……何かあった?」


「……あ」



 私はヘンタイの言葉で、流哉の事を思い出した。


 黙り込む私に、ヘンタイは優しく言った。



「何でも言ってみ?」


「……」


「……言えないなら、言わなくていいけど」



 私が顔を上げてヘンタイを見ると、ヘンタイは優しい笑顔を浮かべて「ん?」と言った。


 コイツになら……。


 私は口を開いて、話を始めた。



「……あのね……」






 あれは、私が中学2年生の、秋の出来事だった。


 私には、好きな人がいた。



 それが私の元カレ、下園流哉だ。


 修学旅行の時に友達にそれを打ち明け、友達の応援もあって、修学旅行から一週間後に、同じクラスの流哉を、放課後に呼び出して、私は告白した。





「あの……えと、ま、前から好きで……付き合って下さい」



 私が告白すると、流哉は驚きながらも笑って



「いいよ」



 と言ってくれた。



 その時は、すごく嬉しかったのを覚えている。


 事件が起こったのはそれから数日後、私達の初デートだった。




 その日は日曜日だったけど、


「お互い部活も無い貴重な日だから、混んでてもいいよね」



 という流哉の意見で、私達は遊園地に行った。


 すごく混んでたけど、

「流哉と一緒だから」

 って思えた。


 帰るときまでは。





 9時頃、私達は帰る事にした。


 帰り際、遊園地の出口付近の、噴水の所で流哉は私の腕を掴んで、噴水の前に私を引っ張った。



「な……何?」


「俺さ、本気で好きになった。お前のこと」



 流哉はそう言うと、私に強引にキスをした。



 流哉が初めての彼氏で、私はそれがファーストキスだった。



 ファーストキスの私にとっては、人前でされるのがとてつもなく恥ずかし過ぎるようなキスだった。


 周りの視線を痛いくらい感じた。


 あちこちで私達のキスの話をしてるのが聞こえた。



 私はそれに耐えかねて、流哉を突き飛ばした。




「何でだよ……」



 流哉は悲しそうな、それでいて困惑の表情を浮かべてた。



「俺が嫌なのか?」



「ち、違うよっ。まだこういうのは……人前だし……」



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