透明ニンゲンと秘密のレンアイ


 口々に安堵の声を漏らす女子達の中、胡桃が私に訊いてきた。


 私は、一瞬詰まった後、こう言った。



「うん。そうだよ。第一私とこの人、接点ないのに付き合ってる訳ないじゃん」



 ――ズキッ



 少しだけ、胸の奥が痛んだ。


 笑顔も少し、引きつっていたかもしれない。



 何で。

 別にこんな嘘吐くくらい、何ともないはずなのに・・・・・・。



「・・・・・・へえ、何だつまんないの」



 胡桃がつまんなそうに自分の席に向かう。


 それをきっかけに、私をとり囲んでいた女子達は散って行った。



「はぁ・・・・・・」



 私は安堵の溜め息と、もう一つ、別の意味の溜め息を吐いた。


 後ろを振り返ると、ヘンタイが周りにバレないように小さく笑い、私に手を振った。



「・・・・・・」



 私は一瞬迷った後、小さく笑ってぎこちなく手を振った。

 そして直ぐに教室の中に入り、自分の席に着いた。


 私が準備を終え、鞄をロッカーに入れて再び自分の席に着くと、前の席の胡桃が話しかけてきた。



「若桜、本当に何も無いの?」


「え?」


 私は胡桃の言ってる意味が分からなくて聞き返した。

 胡桃は一瞬黙ったけど、すぐに続きを話した。



「だって、若桜の笑顔引きつってたし。本当は何か隠してたんじゃない?」


「えっ、うー・・・・・・っと・・・・・・」



 胡桃は私の煮え切らない態度に、少しもどかしそうに言った。



「無理に言えとは言わないよ。けど、ちょっと傷ついてるようにも見えたから・・・・・・」


「え・・・・・・っ」



 やっぱり私、傷ついてたんだ・・・・・・。


「そうかな? いや、ホント何も無いよ。気にしないで」


「ふぅん・・・・・・」



 胡桃はちょっと納得しない様子だったけど、丁度担任が教室に入ってきて、朝のHR開始のチャイムが鳴ったので、胡桃はそれ以上は何も言ってこなかった。

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