キミのための声







「仕方ねぇな」とか



そういうレベルじゃない。




あからさまに嫌がるだろう。



それが怖いから、お弁当を作る
という日常を始めたのだ。





そのお弁当を忘れたんだから、
恐らく今日は葵くんと
過ごす時間はゼロ。








「はぁぁぁー……」




「オイコラなかりさ、
遅刻して来といて
なんだその溜め息は!」




1限目が終わった休み時間、
一際大きな溜め息をつく
あたしに陽が教師のような
口ぶりで言った。




「だって葵くんのお弁当、
忘れちゃったんだもん…」



陽は「はぁ?」と首を傾げ、



「別に作ってこなくていいって
言われてんだからよくね?」



「よくないよー……。
会える時間が無くなるんだよ?」



「会いに行けばいーじゃん。」



「そんなことしたら
めんどくさいって思われんの
目に見えてるもん……。」



陽は萎えたような顔をして、




「ほんっと冷たい彼氏だな。
有り得ねーってそれ」





冷たい…




うん、まぁ




冷たいんだよね……





「あ、中山っ」



背後から笑顔で
声をかけてきたのは、晃平。



「昨日話した建吾がさ、
早速今日の放課後時間
作ってくれたよ」



「あ…ほんと?」



「おうっ。ここに
来てくれるってよ」



「そっか……」




どんな人なんだろ。



……ていうか、
何話せばいいんだろ?




葵くんと仲が良い友達っていっても、
何でも聞いていいわけじゃ
ないだろうし。




…ていうか、
聞きたいことって何だろ。




色々と考えていると、
それを見透かしたかのように
晃平が言う。



「中山が滝澤の知らない
こととか、気になったこと
何でも聞けばいいんじゃね?」



「…知らないこと?」



「そんだけ絡み薄ければ、
あいつの性格のことでも
イマイチ分かんねぇとこ
あんじゃねーの?」



「か、絡み薄いって!」



「え?濃いの?」



「それはっ…」



「どこが濃いんだよ」と
いいたげな表情で
ワザとらしく首を傾げる
晃平に、あたしは口ごもる。




確かに、絡みは薄い…



薄すぎる……。






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