キミとの距離は1センチ
それに気が付いて、わたしは後ろを振り返る。

そこにいたのはとても予想外の人物で、思わずぽかんと目を見開いた。



「……い、せ……?」



ほとんどひとり言みたいにつぶやいたわたしを見て、彼は眉をひそめる。

なんだか、めずらしく不機嫌そうな顔だ。そのまま肩を掴まれて、わたしはからだごと反転させられた。



「え、伊瀬、なんでここに……」

「それはこっちのせりふだ。なんでおまえ、傘も差さないでこんな雨の中歩いてんだよ」



少しだけ怒ったようにそう言う彼の手には、いつものビジネスバッグが握られている。つまり今は、退勤中ということだ。

……ああ、そっか、ここは伊瀬の通勤ルートなんだ。伊瀬は朝が弱いから、会社から歩いて15分くらいのマンションに住んでるって、前に言ってたっけ。


雨に当たっていたせいか、ぼんやりした思考でかろうじて考える。

何も答えないわたしに、さらに伊瀬が眉を寄せた。



「……佐久真、今日は宇野さんと一緒だったんだろ? なんで今ひとりなんだよ」

「………」



宇野さん、というワードを聞いて、思わず目を伏せる。

それに何かを察したらしい彼が、不機嫌な顔を解いて驚いたように目をみはった。
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