キミとの距離は1センチ
「あぶな、」



とっさに手を伸ばした伊瀬くんが、がしりとわたしのからだを支えてくれた。

立ち上がってみてわかったことだけど、伊瀬くんの身長、わたしとそう変わらないくらいだ。

そんな人に、ほぼ全体重支えてもらっているなんて……申し訳ないという気持ちしか、浮かばない。

ごめんなさい、と、ぐったり彼にもたれたまま、つぶやいた。



「歩くのは、無理か。……ちょっとごめん」



彼がそう言ったかと思ったら、ふわ、と、からだが浮いて。

すぐ近くには、伊瀬くんの顔。わたしは彼に、お姫さまだっこで抱えられていた。



「これ、佐久真さんのカバン?」



人差し指で示されたそれに、呆然としたままこくりとうなずく。

彼は床に放置されていたわたしのバッグを持ち上げると、そのままスタスタ歩き出した。



「……、」

「救護室って、どこだろ。とりあえず駅員に訊けばわかるか」



ひとり言のようにそう話す伊瀬くんに抱えられながら、わたしは完全に放心状態。

だって伊瀬くん、まわりを通る人たちがすっごいわたしたちのこと見てるのに、まったく気にする素振りもなく真顔だし……。

そして何より、自分と同じくらいの身長の人にこんなに簡単に抱えられているということが、とても衝撃的だったのだ。
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