我妻教育2
事務所には八暮丹さんだけ残っていた。

「あなたがこれまで通りに働きたいって決めたなら、マダムにも伝えてあげるから」


「…はい」

静かに返事して、そそくさとロッカーのあるスタッフ控え室に入った。


目をつぶってこれまで通り…?


料理の仕事はこれまで通り続けていきたい。

夢は変わらない。

レシピを失ったことよりも、今はマダムを信じられない。


どういう風に折り合いをつけたらいいんだろう。

悲しいけど、悔しいけど、許せないけど、でも、マダムが心から謝ってくれたら…そしたら……。


隣の事務室から電話の音が聞こえてきた。
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