欲しがり屋のサーチュイン


「じゃあ、私帰りますね。」

千晶はウイスキーをガバッと喉に流し込み、ゆっくりと席を立った。

「沼田さ…っ、」

ガタッと一緒に美木も立ち上がる。

「あ、私が振られたって皆には内緒にしてくださいね。」

千晶はとぼけたようにこっそりと美木に耳打ちした。

「…送ります。」

「いえ、タクシーで帰るので。」

カウンターへ向かい、こちらを見ようともしない千晶の腕を美木は少々強引に引っ張る。

「送らせて下さい。」

千晶は少し驚きながらも美木を見上げた。

「…。」

「お願いします。」

…分かりました。そう答えてから、千晶は怪訝そうに眼鏡をくいっとかけなおす。

なんだろう。

彼はドン引きして千晶から先程手を引いたのに。

この彼の思い詰めたような表情はいったいなんなんだろう。

< 22 / 40 >

この作品をシェア

pagetop