欲しがり屋のサーチュイン




「ありがとうございます…大分ましになりました。」

1時間後、美木は思っていたより早く復活した。

むくりとゆっくり体を起こす。

「それは良かったです。」

「……?!」

ペタペタとなる足音に、美木はギョッとして振り返った。

バスタオルでガシガシ濡れた黒髪を拭きながら、千晶は美木に近付いていく。

「お風呂……に、入られたんですか…。」

「え?入りますけど。」

シャカシャカ口に含んだ歯ブラシを動かしながら千晶は美木が落とした濡れているタオルを拾い上げた。

「あ、すいません。……はぁ、あぁなんだ、もう…。」



「立ち上がれそうですかー?」

洗面台に口をすすぎに行った千晶が少し声を張り上げる。

美木はゆっくりと立ち上がり、首を伸ばしながら頭をわしわしと撫で付けた。

「…はい、あの、…ありがとうございます。」

「いえいえ。」

千晶は絨毯の上に座り込みわしわしと引き続き髪をタオルで拭く。

美木はまたソファに腰を降ろして千晶を見つめた。

「……沼田さんが眼鏡かけてないとこ、久し振りにみました。」

千晶は少しぼやけた視界を持ち上げる。

「え?そうですか?」

「そうです。」

美木の輪郭がぼやけて見える。

表情も今イチ良く分からない。

…この人、今どんな顔してるんだろう。

千晶は膝立ちになって彼に一歩近付いた。


「ああ、見えた見えた。」

ぐっと近付いた距離の中に居たのはピキンと固まってしまっている綿菓子王子で。


「(…綺麗な顔。)」

千晶は一歩足を引いて元の距離に戻った。



「……沼田さん。」

「はい。」

千晶はわしわし髪を拭く。



「…………。……好きなんです。」


「…。」




…まだ言うか。
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