1%のキセキ


「別に付き合わなくてもさ、体の関係ってだけでもいいじゃん。あんただったら皆、簡単に股開くと思うけどー」

……相変わらず、顔に似合わず下品なことを言う。

これで少しは口を慎んでくれたら、大和撫子だってのに。


長い黒髪に、すっきりとした目鼻立ち。

体型も背が高い細身で、足も長い。

これで白衣を着たら、誰もが一度は振り返って見るかっこいい女医なのに。

出てくるのはこんな、品のかけらもない言葉ばかり。


「ほら、あいつを見てごらんよ。イケメン、地位、収入を存分に思い残すことなく活用してるいい見本じゃない」

そう言って藤沢が顎で指し示した人物は、外科の黒瀬先生。

いつものように食堂で看護師のハーレムを作っている。

俺達より経験年数が上で、先輩にあたる外科のドクターだ。

とにかく、かっこいいのに人当りがいいと評判。

ま、そんなのは表だけで裏じゃ女をとっかえひっかえしているらしいが。

若い医者仲間の中じゃ有名な話だ。


しかし、そんなことはさておき……。


「……なんか、お前と話してると女と話してる気がしない」

げんなりしながら言うと、奴が俺の顔を覗き込んできた。

「なんかさ最近元気なくない?もしかして昔の想い人とでも再会した?」


ずばっと言い当てられ、思わず言葉も出ない。

噂とは早いもんだ。

外来のあの若い看護師が未結のことを言い広めたのか。

しかし、想い人って……
多分推測して脚色したんだろうけど。

その通り過ぎて洒落にならない。


「……」

「やっば、ネタにできない位本気なのね」

押し黙っていると、奴がしまったとでも言うように口を手で覆った。
しかしそう言う割には、全く焦っている様子が感じられない。

スルーして、そばの麺をずずずと啜る。




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