1%のキセキ

検査を終え処置室へ戻ると傷を縫合していく。

さっき撮った画像が脳裏に浮かぶ。
今回ぶつけたという真後ろとは別の箇所に、小さな血腫がうっすら溜まっていた。前の宗佑が書いたカルテを見ると、それが何を意味するかは一つしか考えられなかった。


「……彼を呼んで下さい」

看護師にそう声をかけると、すかさず彼女が止めた。

「あ、あの、私だけでいいです。私から彼に説明するので」

患者本人がそう希望するのなら、こちら側としては無理強いすることはできない。……ただ彼が加害者だとしたら、この画像は見せるべきだし問い質さなくてはならない。

しかし、彼女はそれを望んでいないようだ。だからあえて、宗佑を避けたかったのだろう。あいつだったら、絶対に彼を責め立てていただろうから。

しかし私だって真相を知りながら何もできないというのには心苦しいものがある。

……しょうがない。
私がここで右往左往していても何ら解決にはならない。とりあえず彼女にだけでもことの深刻さが伝われば……。

割り切ってパソコンにさっき撮った頭の画像を写し、ペンで問題の箇所を指しながら説明する。

「西川さん、ここにうっすら膜ができているの分かりますか?これは血腫といって血の塊です。ちなみに、これは今回ぶつけたところにできたものではありません。以前から繰り返しぶつけていたところにできたものです」

説明しながら、ちらと彼女の顔を見る。
彼女は顔色一つ変えず、真剣に画像を見つめていた。

「時間がたってからこうやって広がってくるのことがあるんです。今回ぶつけた箇所ももちろん広がる可能性があります。今のままだったらどうとでもありませんが、今後もし大きく広がってくるようだったら手足のしびれや動かしにくさ、言語障害、意識消失などといった症状が出てくる恐れがあります」

「……それはどの位の確立で広がってしまうものなんですか?」

「それは現時点ではなんとも言えません。なので、また外来に受診してもらい頭の検査をしていく必要があります。ちなみに症状が出て、そこまで悪化してしまったら手術をしないと治りません。手術部位の髪の毛も剃る必要があります」

「もし症状が出ても手術をすれば治るんですね?」

その発言は『まだ殴られても大丈夫なんですね』と言っているように聞こえた。

しかし、手術を受ける際は髪の毛を剃る必要がある、結婚式を控えた彼女にそう告げているのに、どうしてそんなに平然としていられるのだろう。

もしかして、もう諦めているの……?
傷つけられることに。


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