恋愛事案は内密に
「仕事になりません。ここでもいいですけど、やっぱり僕の部屋に行きましょうか」

そういうと、所長は事務室に戻り、荷物をまとめ、一緒に会社を出る。

「試作室の片づけはしばらく時間がかかりそうですね、むつみさん」

エレベーターに乗り、一階に向かう途中、所長はいたずらっぽい目をしながら言った。

ビルの外へ出る。ひんやりとしていた試作室とは違って、夜なのに蒸し暑い空気が流れている。

ビルの玄関ホールは明かりが消え、玄関の自動ドアは電気を落しているため開かなくなっていた。

自動ドアの隣のドアを開ける。ビルの裏通りにある駐車場へ出ようとしたときだった。

「むつみさん、カバン持ってもらえますか?」

所長がカバンを渡してきたので預かると、体がふわりと宙に浮いたような気がした。

所長は私を抱きかかえ、お姫様だっこをした。

「あんなになっちゃって、ふらついて歩けないでしょう」

この歳で、というか、初めてお姫様だっこされて、ますます恥ずかしさとうれしさで胸がおしつぶされそうだ。

「ちょっと、恥ずかしいですよ。下ろしてくださいってば」

「ダメです」

所長の車の前に来てようやく私を下ろし、車のドアを開けた。

「僕のむつみさん、どうぞ」

車に乗せられ、所長の住む城へ向かった。

「まだはじまったばかりですけど、むつみさん、覚悟していてくださいね」

明日も仕事があるのに、今夜は眠らせてはもらえなさそうだ。

(了)
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