恋愛事案は内密に
もう恋はこりごりだと仕事に打ち込むことを決意した。

数ある会社の中で、今の会社を見つけたのは新卒向けの就職フェアで会社のブースで説明をしていたのが北野さんだった。

凛とした姿に見合うパンツスーツ。
一人ひとりに声をかけ、わかりやすい言葉で会社の説明をしていた。
その姿が光り輝いていて、別の感情も芽生えていたのは後でわかったことだ。

情報系の大学に進んでいたけれど、会社理念が自分と合っていたこともあり、入社を希望し、内定をもらい、入社した。

入社後、研修中にも何度も女性から誘われたことがあったが、困り果てたところを声をかけてくれたのは配属先にいた北野さんだった。

北野さんのためなら何でもしたいという気持ちが生まれた。

北野さんの期待に添えるのなら、難しい案件でも応えていこうとした。

結果が芳しくなくても、北野さんは「よくやった。自分の実績になるから」と褒めてくれた。

だから仕事をやってこれたのかもしれない。

僕が入社したとき、当初、北野さんが濱横の所長になる予定だった。

人事部が下したのは僕だった。

内示を受け、本社へ行ったときだった。

総務課の高砂さんが声をかけてきた。

「五十嵐くんすごいじゃない」

「もっとふさわしい人物がいましたけど」

「まあね、最終的な判断は駒形さんだったらしいけど」

「……そうだったんですね」

「いいじゃない。若いのに出世コースなんて。ウチの課の子も五十嵐くんのこと応援してたわよ」

「ありがとうございます」

本当なら北野さんが濱横をまとめるのにふさわしいのに。

あんなに自分を捨ててまで他人を思いやり、尽力する姿に誰もが管理能力にたけているのは言うまでもなかったのに。
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