世界でいちばん、大キライ。
「桃花ちゃんは?」
「あ、いえ。エスプレッソならジョシュアさんすぐ飲んじゃいそうですし」
「でも、ランコントゥルからお菓子もらったんじゃなかったっけ?」
「ああっ。そうでした! すみません、私忘れてて!」

ジョシュアの隣に腰掛けようとしていた桃花は、ハッとしてパントリーに顔を向けた。
そしてパタパタと奥へ戻ると、すぐに白いケーキ箱を手にしてくる。

「これ、どうしましょう?」
「なになに~?」
「焼き菓子です。仕入先の方からご厚意でいただいたんですけど……コーヒーに合うって」
「へぇ! ねぇ、リョウ。オレも食べていー?」

子どものように箱を覗き込み、甘えたような声で了に言う。
すると、了はわざと素っ気なく冷ややかな目を向けた。

「ウチは持ち込み禁止」
「えー」
「なんてな。今、ちょうど誰もいないし、特別許す。っていうか、それ、桃花ちゃんのだぞ」

ふたりの会話に、桃花はくすくすと笑って、箱をジョシュアの方へと差し出す。

「店長の許可も下りましたし、一緒に頂きましょう」

そう言われたジョシュアは、嬉しそう口角を上げると、「そうだ」と思いついたように了を見た。

「リョウ。ちょっと貸してくれないか?」
「構わないけど。桃花ちゃんに?」
「Yes.美味しい焼き菓子のお礼に、美味しいラテを淹れてあげようかと思ってね」

そうしてジョシュアは立ち上がると、桃花を見下ろし微笑みかける。
長袖の白いシャツを腕まくりすると、了のいる内へと堂々と入って行く。
カウンター越しに、桃花はジョシュアを見つめた。
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