世界でいちばん、大キライ。
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――約半年後の春。

桃花はその日もコーヒーの香りに囲まれて過ごしていた。

「Hey,Momoka! Take a rest(休憩したら?)」
「Thank you very much(ありがとう)」

現地スタッフとの関係も良好な桃花は、先輩スタッフに声を掛けられて持ち場を離れる。
ランチには大抵自店のコーヒーとサンドイッチ。

「あ。晴れた!」

独り言はやはり日本語で。
スタッフルームの窓から晴れ間を見つけて呟くと、スプリングコートを纏って外に出た。

桃花のいる店の周りは木々が多く、ひんやりとした空気が肌を撫でた。
元々東京よりも気温が低めのシアトルだが、その肌寒さにも慣れてきた頃だ。

近くにあるベンチのうち、幸い元々あまり濡れない位置だったのか、乾いた座面を見つけるとそこに腰を下ろした。

腕時計を見ると、午後2時過ぎ。

(っていうことは、日本(向こう)は朝6時……寝てる時間だ)

溜め息をつくことはなくなった。
初めのころは、昼夜の時差に、声が聴きたくても電話する勇気もないもので溜め息を無意識についていたものだ。

それでも、月に何度かは久志が桃花の時間に合わせて数回電話をしていた。
あとは主にメールのやりとり。それも、元々久志はメールも得意じゃないようで、長くは続かないのだが。

それでも桃花はメールを見る度ににやけてしまうくらいに幸せで、また頑張ろうと思わせてくれるものだった。

「モモカ」

携帯を取り出して前回のメールを見ていた桃花は、名前を呼ばれて顔を上げる。

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