私の好きな人 私を好きな人

大人っぽい横顔


ふわり


閉店後、お店の前でクローズ作業をしていた私の足下に、桜の花びらが舞い落ちた。

お店の制服は年中、半袖だから、ずっと店内にいると、つい季節を忘れてしまうけれど…。

私はメニュースタンドや店頭ディスプレイをしまいながら、深呼吸をする。


『もう春だねー』


私は二回生になった。

一年前の今ごろは、杉下さんに毎日叱られてたっけ。

杉下さんは念願の航空会社に就職が決まり、春からはキャビンアテンダントへの道を歩み始めた。


『見て見て、桜の花びらだよ』


私は誰もいない客席の床を磨いているハナに、春の欠片を見せる。





クローズ作業は二人のスタッフで行う。
いつもはスタッフルームにいる店長も、今日のシフトを見て、
『新谷とハナやったら、俺おらんでも大丈夫やな』
と帰っていった。


私はハナと二人でするクローズ作業が好きだった。

ハナは、私がいちから教えた子だから、全て私のやり方通りに作業を進めてくれるし、仕事がしやすかった。


それに。




『ダンスしてるの?』

私は手を止めて、ハナを見る。

『はい』

『へぇ、どんな?』

『ブレイクダンスです』



作業をしながら、私とハナはたくさんおしゃべりをする。
この時間が楽しかった。


『この店の自動ドアのとこ、夜になると鏡みたいになるんですよ。ガラスが』

『そうだね』

『そこで、よくダンスの練習をしてたんですよ、俺』

『え…そうなの?』

そう言えば、クローズ作業が終わって帰る時に、店の前で踊ってる子を何人か見たことがある。


『私、ハナを見たかも』

『俺も、新谷さんを見たかもしれないですね』

そう言って微笑むハナの笑顔に、私はいつも癒される。



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