薫子さんと主任の恋愛事情

大登さん、あまり余計なことは言わないで下さいと心の中で願う。でもその願いも虚しく、遠く彼方へと放りさられてしまう。

「薫子さんとは、お付き合いさせていただいています。と言っても告白したのは昨日の話でして。あ、ご心配なく、薫子さんにはまだ手は出していませんので」

大登さん……。

どんなことを言うのか、なんとなく嫌な予感はしていたけれど。その予感、大的中。

“まだ”手は出していませんので……なんて、今後手は出しますって言ってるようなものじゃない!

これは困ったとため息をつき、きっとおばちゃんも驚いているはずと思っていたのに、おばちゃんの口から飛び出た言葉に絶句。

「八木沢さん、何言ってるんですか。薫子ちゃんももう二十二歳の立派な大人ですし、手くらい出してもいいですよ」

「お、おばちゃんっ!!」

手くらい出してもいいって……。うちの親が聞いたら泣くよ。

このまま付き合いが続けばそういうこと?になるかもしれないけれど、まだ彼女としての自身も自覚もない私には当分先の話。

「薫子ちゃん怒らないの、冗談よ冗談。本当は繊細で傷つきやすい年頃なの。薫子ちゃんを傷つけるようなことをするのだけは、やめてくださいね」

「おばちゃん……」

いつも『あなたは私の子供も同然』なんて言っていたけれど、ここまで思ってくれていたとは……。

おばちゃんの優しさに、胸がじんと熱くなる。



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