読心女子≠恋愛上手<お悩み二乗はπ
第11話

「なるほど、つまり絶賛失恋中と。こういう訳か」
 事の顛末を聞き牛丼を頬張りながら麻耶は事も無げに話す。当の愛美は相変わらず食が進まない。
「確かに、今朝も家出るとき真新しいグリーンのマフラーしてたけど、それって本当に知世ちゃんのマフラーなのかしら?」
「どういうことですか?」
「今の話を聞く限り、全てがマナちゃんの憶測と思い込みの可能性があるってことね」
 人差し指を立てて麻耶は語る。
「今回の引き金となったマフラーの件だけど、知世ちゃんから貰ったマフラーかどうかの真偽がされてない。啓介が自分で買った可能性、親類から貰った可能性、知世ちゃん以外の人間から貰った可能性がある。雪が降る中、二階のマナちゃんの部屋から視認して、確実に知世ちゃんのマフラーだと言い切れる?」
「そう言われたら、分からないかも……」
(でも、あの色は私とトモが一緒に買った限定色っぽかったし……)
 押し黙る姿を見て麻耶は溜め息を吐く。
「とにかく、啓介に聞くか知世ちゃんに聞くかしてマフラーの真相を確かめてから失恋しても遅くないんじゃない?」
「確かめてから失恋するのって二倍痛いんですけど」
「あはは、そのときは私が責任取って美味しいもの奢ってやるよ。いつだって私はマナちゃんの味方だから安心しな。もし、啓介がヒドイこと言うもんならシバキ回してやるし」
 励ましにこやかに笑う麻耶を見ていると、暗く重かった心が軽くなっていくのが分かる。昔から姐御肌で頼りになることは分かっていたが、苦しいときに味方と言ってくれる麻耶の存在に涙腺が緩む。
「麻耶さん、ありがとう……」
「いえいえ、こちらこそありがとう」
「えっ? ありがとうって、私何も……」
「ううん、啓介を好きでいてくれて、ありがとう」
 予想もしてなかったセリフを真顔で言う麻耶に言葉が出てこない。
「啓介って馬鹿でアホで、我が弟ながらまだまだ子供だと思う。ちょっと前だって、わざわざお菓子を届けてくれたマナちゃんに対して何もおもてなしせず返しちゃうしホント恥ずかしい限り。でも、そんな頼りない啓介を想って泣いて心を痛めて学校をサボるくらい好いてくれて、姉として凄く嬉しいし感謝してる」
「そんな風に言われたら、私泣いちゃいそうです」
「いいんじゃない、泣いて。女は泣いて綺麗になるって言うし。だから、逞しい私はなかなか綺麗になれないのよね~」
「麻耶さんは最初から綺麗ですからいいんですよ。羨ましい」
「あら、ありがと。素朴な疑問なんだけど、啓介のどこが好きなの? ご存知の通り、思考レベルはまだまだお子ちゃまよ?」
「そうですね。それも含めて、純粋で裏表のないところだと思います。居て安心できるって言うか。もちろん面と向かっては言えませんけどね」
 苦笑いする愛美につられて麻耶も笑う。心境を吐露することにより心が軽くなるとお腹も軽くなり、麻耶に断った上で手を付けてなかった牛丼に手を伸ばす。昨夜からほとんど何も食べていなかったこともあり、ファストフードの牛丼でもご馳走のように感じていた。

 麻耶と別れると自然と足は学校に向かい、真実を受け止める覚悟もできる。去り際に言ってくれた「泣きたいときは私の胸をいつでも貸してやる」という言葉を思い出すと噴き出しそうになる反面、もの凄く心強くもなれる。学校へ向かう列車をホームで待ちながら麻耶とのやりとりを反芻する。心を読むまでもなく麻耶は本心でぶつかってきていたことは明白で、こんなに男気ある女性も珍しいと実感する。
「麻耶さんは里菜先輩とはまた違った魅力を持った女性よね。それに比べて私なんか何の取り得もない。啓介と他の女性との関係を比べてアドバンテージがあるのは幼馴染って点くらいか。逆の立場でも彼女にしたいと思えないわ」
 独り言をぶつぶつと言いながら立っていると、ホーム反対側から突然名前を呼ばれる。
「愛美!」
 一際大きな声の主に愛美のみならず周りの人も視線を向ける。その男子生徒は階段を勢い良く駆け上ると、走って愛美のホームまでやってきた。目の前で汗をかいて肩で息をしながら見つめる啓介に愛美は問いかける。
「な、なんで啓介がここに? 学校は?」
「馬鹿野郎! そりゃこっちのセリフだ!」
 声を張り上げ真剣な顔をする啓介に愛美の鼓動は早くなる。啓介はまだ興奮冷めやらぬようで詰め寄ってくる。
「学校にも来ない、家にも居ない、携帯も繋がらない。オマエ、なんのつもりだ!?」
「何って、別に、アンタには関係ないでしょ?」
「関係ないだと? 人がどれだけ心配したと思ってんだ」
「心配……、啓介が私を? あれでしょ? また麻耶さんに聞いてここに来たんでしょ? 来ないとまたビンタされると思って」
「はあ? 何で今姉ちゃんの名前が出るんだよ? 意味分からん。俺は朝からオマエを探し回ってここに居るんだよ」
 予想もしてなかった返事を受け、胸の鼓動はドンドン大きくなっていく。
(啓介、連絡が取れなくなった私を心配して、こんなに汗だくになるまで探してくれてた……、しかも自分の意志で)
 啓介の優しい思いやりに触れ、愛美の想いは溢れんばかり胸いっぱいに広がっていた。

< 11 / 18 >

この作品をシェア

pagetop