T&Y in神戸
待ち会わせの場所に車が停まると、直ぐに降りようとする太一を岸は引き留めた。
「ネクタイ、カフス……っ」
「あ、ああ。」
太一は頷きながら窓の外を伺う。
残念ながら、太一のいるところからは待ち合わせ場所を伺う事が出来ない。
忙しなくネクタイとカフスボタンを外す太一に、岸はそんなに慌てなくてもと苦笑した。
「それに、」
そのまま出る気ですか、と、カフスボタンを外す太一の前髪に指を差し入れ、ワシャワシャと整えられた前髪を崩した。
パラパラと目にかかる程の長めの前髪が落ちる。
「ここは、地元ですから気を使っていただかないと。」
と、眼鏡を手渡す。
「ああ…」
黒渕のだて眼鏡は太一の切れ長の目を緩め、落ちた前髪が少しだけ若く見せる。
岸はうん、大丈夫と頷くと、
「行ってらっしゃい、気を付けて。」
と、ボブを揺らし嬉しそうに背中を押した。
「行ってくる。」
太一は振り向きもせず、間直ぐに駅の構内へ……由香利との待ち合わせ場所へと向かった。