愛なんてない



わたしは自分が軽い気持ちでした事が先生を傷つけてしまったのだ、と今更気付いて罪悪感に苛まれる。


「ごめんなさい……」


じわっと溢れた涙に気付かれないよう、声の震えを懸命に抑えながら謝った。


泣いてるなんて、気付かれちゃだめだ。





わたしは……ここで泣いちゃだめ。


誰もいない場所で誰にも聴こえないように。


誰にも気付かれないよう、誰にも心配かけないように。


わたしは鼻の奥に力を入れて熱い滴を抑えようと躍起になった。


流れないように顎を上向きにして、収まるまで待とうとしたのだけど。


ぼんやりした視界の隅に、さくら色の何かが飛び込んだ。


そして目元の涙を拭われてる、とすぐに気付いた。


「目ぇ閉じてろ。涙と鼻水でぐちゃぐちゃだぞ」


相良先生の呆れた声に、わたしはむきになって言い返した。


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