可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

そのカップルを追い抜いて。

あたしはこのあたりでいちばん高層のタワーマンションへ急ぐ。






『ニカ、大好きだよ』





あたしはファストフードも、ショップ巡りも、コイバナも、必要ない。






『僕は誰よりもニカがいちばん大切なんだよ』






友達も彼氏も。





----------家族だっていらない。





「……3.141592653589793238462643」






『ニカ、可愛いよ』

『ニカ、どうしたんだ』

『ニカ、僕は君のためならいつだって……』






ときおり頭を過ぎるその声を。

そして以前あたしをとりまいていた、完璧に満たされていたちいさくていびつな世界を。



円周率を唱えて追い出してやる。






『ニカ』
『ニカ……』






「09384460955058223172535940812848111745028410270193 8521105559……ッ」




隙あらば頭に浮かんでこようとするその声も姿も、数字で塗りつぶしていく。

無限に続く数字の回廊をたどるうちに、ようやくマンションの一室に着いた。



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