可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「好きにして。言ったでしょ、どうせあたし休むし」
「うちのクラスは横浜散策だろ?ほとんどの班はシーパラで遊ぶみたいだし、穴場周ればクラスの奴らに会わずにすむじゃん」
「行かないもんは行かない」
「ああ、そう。不戦敗ってことでいいってこと?おまえ逃げんだ?」
「……そういう子供っぽい言葉で煽ってもあたし行かないから。渚は七瀬由太とふたりきりでデートでもしてろよ」
にらみつけてやると、渚はスマホを取り出して背面についてるちいさなレンズをあたしに向けてきた。
「何?」
「ウケるからちゃんと顔見せろよ。おまえが負け犬になったときの顔、写しといてやるから」
「ふざけんな変態。勝手に負けとか決めるな。ってかそんなに撮りたいならさっさと帰ってリア充先輩とハメ撮りでもしてろ」
「………おまえさ、だから女のくせに平気な顔してそういう言葉使うの、やめろって」
渚が喋り終えるうちに、スマホが震える。
渚は画面を見たまま動かない。コールは続く。一度止んでも、またすぐに震えだす。
「……熱烈なラブコール?」
渚はあたしの言葉を肯定しない代わりに否定もしなかった。
あたしの前でリア先輩と恋人同士の甘々なやりとりするのは気恥ずかしいのか。
渚はすこしだけ固い顔して画面を見てるだけで出ようとしない。コール音は情熱的に鳴り続いてる。
「愛されてる感ハンパねぇし。すげー呼ばれてんじゃん?」
若干引くくらいの執念でコールは何分も続く。
「………行けば?」
あたしに言われたからってわけじゃないんだろうけど。渚は無言で立ち上がった。
どうやら美人先輩の粘り勝ちらしい。
渚はあたしの方を一度も見ないで、じゃあなの言葉すらないまま、リビングの床に転がしてあった鞄を拾い上げると出て行った。