可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

声を掛けてきたっていうか、あれは喧嘩売られてただけなのかもしれない。





放課後班のみんながサボった所為でひとりで当番の理科室を掃除していると、すごい形相した渚が突然乗り込んできた。



「てめ、よくも由太にナメたマネしてくれたなッ」



渚はあたしが手に持っていた箒をいきなり蹴り飛ばしながら言ってきた。


「ゆたって……?」
「七瀬だよ、七瀬由太ッ。てめぇ同じクラスだろ!」



言われてようやく、その『七瀬由太』っていう男子がクラスメイトであることを思い出した。




七瀬由太は渚と同じ派手なグループにいる男子で、イケメンだし背はチビじゃないけど、まだ幼いっていうか。

アイドルみたいなぱっちりした目の、甘めでどこか小動物っぽいかんじのかわいい系の男子だ。


やさしげな分、繊細そうな。そんな頼りない感じのひと。






その七瀬由太に、昨日あたしはキスさせて欲しいって頼まれた。

そんなことを思い出した。




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