蒼の歩み
「何が言いたいかと言うと、挫折を繰り返したから。今までの俺があったからこそ、今の俺が居るんだと思ってる。辛く苦しい経験は、己の人生の糧になる。俺はそう信じている」



人生に無駄な物など無い、彼は私にこう教えてくれた。この彼の話を聞いてから私も、蒼君のような考え方をするように。



何かにぶつかった時、ただ嫌な出来事だったと終わらせるのではなく、これも己の成長に必要な出来事だと、そう思うようになることが出来た。……完璧に、とはいかないけれど。少しでもそういう風に思考を廻らせる事が出来るようになったのは、彼のおかげ。



「そっか……。ありがとう、蒼君」




「今すぐにゃ無理かもしれねーが、今回の事は真歩にとって無駄なモンにはならねーはずだ。ま、詳しい部分聞いてねーから、俺にとって引っ掛かる所はあったりはしたが」



まあ、別にいいか。と彼は言う。



「もっと詳しい話を聞いてもらいたくもあるけど、その反面、あまり話したくないというか上手く言えない部分もあって。せっかくこうして聞いてくれたのにごめん」



今日は『ごめん』という言葉を使わずに彼と話そうと決めたのに、私の口からはいとも簡単に滑り落ちてきてしまった。






「そんな細かい事話したくねぇのはわかるし、上手く言えねぇのは仕方ねえよ。自分を見つめ直してみな。客観的に、厳しい目で、言い訳は一切せずに」



「見つめ直す、か……」



「ミスは何のためにその仕事があんのかわかってねェから起こるんだ、そしてそのミスによってどれだけの迷惑がかかってるかわかってねェから繰り返す、人の所為にするから直らねェ、と俺は思ってやってきた。上の立場なら特に、部下のミスはテメーのミスだからな。ミスを無くす為にはどうしたらいいか。今までも散々考え悩んできただろうが、もう一度振り返ってみな。真剣に取り組み続ければいつの間にか同じミスは無くなってると思うぜ」



頑張れ、と彼は私の頭をぽんぽんと撫でてきた。あ、ずるいよソレ。魔法の言葉と、魔法の手。完全に私の気持ちが晴れ渡ったわけではないが、彼の言動はいつも私の心を明るく暖かくしてくれる。



「……ありがとう」



今度は『ごめん』じゃなくて『ありがとう』が言えた。



「こうやって話を聞いてもらわなければ、自分では考えようとしなかったことも考えさせられて。気づけなかったことにも少し気づけた気がする。……そのミスによって周りがどれだけ迷惑かかるか、言われて考えさせられた。逆に私は、どうして今までそんな事すら考えれなかったのだろう」



でも、蒼君は。常にそういう事を意識して行動しているということなのか。やっぱり、蒼君というのは凄い人だな。……コレを本人に言ったら、普通のことだ、と言われてしまいそうな気もするが。



「……私は、頑張りがまだまだ足りないみたい」



蒼君のおかげで、私明日からも前を向いて頑張っていけるよ。






















明日の明日の、ずーーっと遠くの明日には。



私の隣に、常に彼が居る関係になっていたらなと、そっと願いながら。
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