蒼の歩み
――きちんと送ってくれるあたり、紳士だよな。いや、普通なのかもしれないけど。もう少しだけ一緒に過ごしたかったが、あまりわがままを言っても仕方が無い。



運転席の彼の顔をちらりと眺めながら、色々思う。



今日は、楽しかったな。数時間前の出来事が、随分前のことのように感じてきた。一緒に映画を観たこと、手作りのお弁当を食べてもらえたこと、手紙を受け取ってもらえたこと……。全部が全部、私の良き思い出となり。



突然だが、私は友達が少ないほうだ。たまに遊ぶ友達はいても、深い話をしたり相談し合ったり出来る人が居ないと言っても過言では無い。



でも、蒼君は違う。ただ一緒に過ごしたり遊んだりするだけではなく、深い話も相談も何でもできる。これからも色んな話をたくさんしたいし、また今日のように1日を過ごせる日が訪れるのを私は待ち望んでいる。



こんな風に思うのは、蒼君だけだから不思議だ。そして、こういう風に考える相手は生涯蒼君だけでいいとも思えてきたのだから、なおさら不思議だ。



ところで、蒼君が帰りの車の中で。手紙の内容に矛盾点があったと言っていたが一体なんのことだろう。私、変なこと書いたかな?



なんのこと?と聞いたら、今度話す、だってさ。気になるな。気になるけれど、今日がとても楽しかったから、なんでもいいや。





もしかして、私。



蒼君に。秋塚 蒼真 さんに。特別な感情を、抱いてしまっているのではなかろうか。



……これが『恋』だと気がつくのは、もう少し先のお話。

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