スイートな御曹司と愛されルームシェア
「あの、寝たって、文字通り〝寝た〟って意味ですよ」
「え?」

 咲良は思わず顔を上げる。

「部屋に入ったとたん、咲良さんは〝ラッキーはベッドの下で寝なさい〟って言って、自分だけ服を脱いでベッドに入っちゃったんです。さすがにフローリングで直に寝るのは寒いし腰が痛くなりそうだから、〝毛布を分けてください〟って言ったら、〝一枚しかないからベッドに来なさい〟って咲良さんが」

(わ、私がベッドに誘った? この私が?)

 信じられない思いで目を見開くが、翔太は話を続ける。

「で、スーツのままベッドに入ろうとしたら、〝そのまま寝たらしわになるから脱ぎなさい〟って咲良さんに叱られちゃったんで、言われた通りにしました」

 咲良のスーツの方が下にあった理由は解明された。でも、肝心なところはまだわかっていない。

「で、その後どうなったの?」

 咲良の必死の形相に、翔太が目をぱちくりさせる。

「どうって?」
「だからっ! ずっと下着を着けたままだったのかどうかってことよっ!」

 どうしても間接的にしか訊けず真っ赤になる咲良を見て、翔太が小さく笑みを浮かべた。

「ずっと着けたままでしたよ」
「一回脱いでまた着た、とかじゃなく?」
「はい。ベッドに入ってから朝起きるまで、ずっと着けたままでした」

 翔太の言葉に咲良はホッと肩の力を抜いた。素性の知れない男の話だから、百パーセント本当かどうかはわからないが、セックスが終わった後わざわざブラジャーやストッキングまで着けて寝たりはしないだろう、ということは、経験の少ない咲良でも容易に想像できた。それに久しぶりにしたときに感じるという〝下腹部の違和感〟もないし、本当に彼との間には何もなかったと考えてもよさそうだ。

 安心したとたん、咲良のお腹がぐぅ、と小さく音を立てた。
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