スイートな御曹司と愛されルームシェア
「でも、さっきの感じ、なかなか良かったですよ。本物の恋人のようでした」
「調子に乗らないの」

 咲良が翔太の手を軽く叩くと、彼が苦笑して手を離した。

「俺をラッキーだと思ってくれればいいんです。そうすればご両親の前でも自然な恋人同士でいられるはずです」
「自分から犬になりたがるなんて、変な人」
「咲良さんだって、俺のことをラッキーって呼ぶじゃないですか」
「まあ、そうだけど」

 意外と口の立つ翔太は、塾で重箱の隅をつつくような質問をしてくる生徒に似ている気もする。

「まあ、とりあえず母からの〝お見合いしろ〟攻撃が止むと思うから、協力お願い」

 咲良の声に、翔太の目元が嬉しそうにほころんだ。

「任せてください。じゃあ、そろそろ行きましょう」

 そう言う彼の笑顔に、咲良は気づけばほっこりしていた。初対面の男を家に連れ込むわ、その男が居候するのを認めるわ、いったい自分はどうしてしまったのだろう。そんなことを思っていると、翔太に話しかけられて我に返った。

「ご実家に何かお土産を持って行った方がいいですか?」
「あ、そうね。駅前のパティスリーでケーキを買うわ。うちの家族はあそこのフルーツタルトに目がないのよね。私はチョコレートムースの方が好きなんだけど」

 改札口に向かおうとしていた咲良がくるりと方向転換したので、翔太があわてて咲良の後を追いかけてきた。

(私の後をいつもくっついてくる年下のかわいい恋人、か)

 そういうのも悪くないわね、と咲良は一人で微笑んだ。
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