スイートな御曹司と愛されルームシェア
「あ、お土産のケーキね。ラッ、と、翔太くん、渡してくれる?」

 あやうく翔太のことをラッキーと呼びそうになって、咲良は一瞬冷や汗を搔いた。翔太がケーキボックスをローテーブルに置くために腰を浮かせたので、その隙に咲良はソファに腰を下ろした。座り直した翔太とは自然な距離が空いていて、ホッとする。死んだ愛犬だと思え、といくら言われても、やはり顔を見るとどうしたって一人前の人間の男にしか見えないのだ。

「咲良、コーヒー運ぶの手伝って」

 ダイニングから母の声が聞こえてきて、咲良は「はーい」と返事をして立ち上がった。ダイニングに行き、普段使わない来客用のコーヒーカップとソーサーを出している母の横に立つと、母が小声で尋ねてきた。

「楢木さんってずいぶんと若いみたいだけど、いくつなの?」
「二十六歳」
「咲良と並んだら姉弟(きょうだい)みたいねぇ」
「何それ、失礼ね」

 咲良はコーヒーメーカーからカップにコーヒーを注ぎ、スティックシュガーとコーヒークリームの入った小さなカゴを盆にのせてリビングに運んだ。そこでは妹も失礼な発言をしている。

「楢木さんは姉のどこが良かったんですか? いつだって堅苦しいスーツ姿だし、髪の毛だって真っ黒でいつもひっつめてて、実年齢より老けて見えるし」

 翔太は盆を運んできた咲良を見て「ありがとう、咲良さん」とにっこり笑うと、その笑顔をそのまま百々花に向けた。その眩しさに戸惑ったように、百々花が数回瞬きをする。


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