今宵、桜の木の下で

あれから、――。

この1週間ずっと、藤木くんと帰る約束をしている。一緒に帰るのも少し慣れてきたと……思う。

だけど、―――。

相変わらず頭に手を乗せられるだけで顔が赤くなって固まってしまう私を

「おもしれー」

藤木くんは楽しそうにからかうけれど。


絶対、わざと、だと思う。


「一瞬で赤くなるよね」

「……」

「そんで、固まる」


大げさに頭を傾げて、真っ赤になった私を覗き込むから

「ひどい……」

言い返せるようになっただけ成長したと……思う。


少しずつ近付いていく距離が嬉しくてたまらない。


昼間に降っていた雨もあがって、私たちの手には傘が握られていた。

そのせいなのか、―― 八幡さまの前を通りかかった時、ふとイクラのことを思い出した。

あの美術室に現れた日から、イクラは姿を見せていなかった。


「そういえばね、この前雨宿りしてる時に男の子が一緒にいたんだけど」

「あの雨の日?」

「うん」


私は藤木くんを見上げて頷いた。


「入江一人かと思ってた」

「うん、そうなんだけど。藤木くんが来るまで男の子もいて」

「男の子って??」

「5歳って言ってたなあ」

「子供だけで、――? あの雷の中を??」

「そうなの」

「それってさ、幽霊でも見たんじゃないの?」


冷やかすような瞳をこちらに向けて、藤木くんはすとんと首を傾げた。


まあ、実際、―――

その通り、なんですけど。

< 59 / 84 >

この作品をシェア

pagetop