もっと★愛を欲しがる優しい獣
その24:遭遇

「ちょっと、亜由!!資料の向きが逆!!」

「え?」

焦って指摘する椿の声を聞いて慌てて手元を見れば、左隅を留めるはずだった資料はもれなく右隅がホチキス留めされている。もちろん、すべてやり直しである。

「うわっ!!ごめーん……」

「もう!!ぼうっとしないでよ。亜由だけさっきから全然進んでないわよ」

当然のことながら、椿は怖い顔で私を睨んでいる。

「ホントごめん……」

私はいたたまれなくなってホチキス留めを間違えた資料で顔を隠して謝罪した。

私達に命じられたのは展示会で配布する資料、合計1000部のホチキス留めである。これがもう本当に大変で、紙の束に埋もれて死ねると思うくらいである。

もっと人手を寄越してもらえれば捗るのにと思っても、下っ端にその権限はない。大人しく紙の束をひと塊ずつ取っては整頓させる、この繰り返し。

そんな簡単なことすらこなせない自分に嫌気がさしながらも、間違って留めてしまったホチキスの金具を外していく。

「大方、鈴木くんのことでも考えてたんでしょう?」

「そんなんじゃないって……」

図星であることを隠すように口を濁すと、単純作業に飽きてきた椿がニヤリと笑いながら追究を開始する。

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